「返品 法律」について正しく理解していますか?ECサイト運営者にとって返品対応は避けて通れない重要な業務ですが、法的な知識不足により思わぬトラブルに発展するケースが後を絶ちません。実際に「クーリングオフが適用されると思っていた」「返品ポリシーが法的に無効だった」といった問題で、売上損失や顧客信頼の失墜を招いた事例も数多く報告されています。
本記事では、返品に関する法律の基礎知識から実践的な対応方法まで、EC運営に必要な法的知識を網羅的に解説します。民法・特定商取引法・消費者契約法の関係性、クーリングオフ制度の正しい理解、返品トラブルの解決方法など、現場で即活用できる情報をお届けします。適切な法的知識を身につけることで、返品対応コストの削減と顧客満足度の向上を同時に実現できるでしょう。

返品に関する法的ルールを理解することは、ECサイト運営において極めて重要です。日本では「事業者は消費者の返品に応じる義務がある」という法律は存在せず、返品は基本的に事業者側のサービスとして位置づけられています。 ただし、特定の条件下では法的な返品権が認められており、これらの知識なしに適切な返品ポリシーを策定することはできません。
返品に関わる法律は主に以下の3つです:
それぞれ解説していきます。
民法は契約の基本原則を定める法律で、2020年4月の改正により「契約自由の原則」が明文化されました。 この原則により、当事者間で合意した契約内容は法律よりも優先されるため、事業者が定める返品ポリシーが重要な意味を持ちます。
特定商取引法は、訪問販売や通信販売など特定の取引形態において消費者保護を図る法律です。通信販売(ECサイト)では、商品受け取りから8日間の「法定返品権」が認められていますが、事業者が返品特約を適切に表示した場合はこの限りではありません。
消費者契約法は、消費者と事業者間の情報格差や交渉力の差を是正するための法律です。消費者にとって一方的に不利益な契約条項を無効とする規定があり、過度に厳しい返品条件は法的に問題となる可能性があります。
契約自由の原則とは、当事者が自由な意思により契約内容を決定できるという民法の基本原則です。 この原則により、事業者は返品ポリシーを自由に設定でき、消費者もその条件に納得した上で契約を締結することになります。
しかし、契約自由の原則を無制限に適用すると、経済的弱者である消費者が不利益を被る可能性があります。このため、現代の法制度では契約自由の原則を維持しながら、消費者保護のための様々な規制が設けられています。
ECサイト運営者は、この微妙なバランスを理解し、法的に有効でありながら顧客にとって納得できる返品ポリシーを策定する必要があります。
3つの法律は階層的かつ補完的な関係にあります。 民法が契約全般の基本ルールを定める一般法であるのに対し、特定商取引法と消費者契約法は消費者保護を目的とした特別法として位置づけられています。
実際の適用では、以下の順で優先されます:
ECサイト運営者は、この法的階層を理解し、最も厳しい規制に準拠した返品ポリシーを策定することで、法的リスクを最小化できます。

特定商取引法では、通信販売において消費者を保護するための「法定返品権」という制度が設けられています。この制度は、商品受け取りから8日以内であれば、消費者が理由を問わず一方的に契約を解除できる権利を保障するものです。ただし、この権利は無制限ではなく、事業者が適切な返品特約を表示することで制限することが可能です。
法定返品権の適用条件は以下の4つです:
それぞれ詳しく解説していきます。
法定返品権とは、商品の引渡しを受けた日から8日以内であれば、消費者が理由なく一方的に契約を解除できる権利のことです。 この制度は特定商取引法第15条の3に規定されており、通信販売特有の「商品を実際に確認できない」というリスクから消費者を保護することを目的としています。
法定返品権の行使には、消費者から事業者への意思表示の到達が必要です。クーリングオフとは異なり、書面による通知は必須ではありませんが、8日以内に事業者に返品の意思が伝わる必要があります。返品にかかる送料は消費者負担となることが法律で明確に定められています。
重要なのは、この権利が「クーリングオフ」とは全く別の制度であることです。通信販売にはクーリングオフ制度は適用されず、代わりに法定返品権が設けられています。
法定返品権が適用されるのは、特定商取引法上の「通信販売」に該当する取引です。 具体的には、ECサイト、ネットショップ、カタログ通販、テレビショッピングなど、事業者と消費者が直接対面せずに行う商品販売が対象となります。
ただし、法定返品権は「商品」の販売にのみ適用され、役務(サービス)の提供には適用されません。例えば、オンライン講座の受講権やコンサルティングサービスなどは、法定返品権の対象外となります。
法定返品権が認められるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります: ①事業者が商品の販売条件について広告をしたこと ②商品の引渡しを受けた日から8日以内であること ③消費者の返品の意思表示が事業者に到達したこと
事業者は、法定返品権を制限したい場合、返品特約を広告に明確に表示する義務があります。 この表示義務を果たすことで、法定返品権の適用を排除することが可能になります。返品特約には「返品不可」という内容も含まれるため、適切に表示すれば返品に応じる義務はなくなります。
返品特約の表示には厳格な要件があります。商品ページでは、返品の可否、返品条件、送料負担について、商品価格と同じサイズ(12ポイント以上)で明瞭に表示する必要があります。さらに、ECサイトの場合は最終確認画面でも同様の表示が義務付けられています。
表示が不適切な場合、返品特約は無効となり、法定返品権が復活します。例えば、「返品についてはその都度相談に応じます」といった曖昧な表現は不適切とされています。
法定返品権は特約により制限できますが、すべての商品で無制限に制限できるわけではありません。 消費者契約法により、消費者にとって一方的に不利益な条項は無効となる可能性があるためです。特に、商品の性質上返品が困難な商品については、合理的な理由に基づく制限が認められやすくなります。
返品制限が認められやすい商品は以下の通りです:
ただし、これらの商品であっても、事業者側の責任による不良品や契約内容との不適合がある場合は、民法に基づく契約解除が可能であることに注意が必要です。
以下の記事では、特定商取引法についてより詳しく解説しています。

クーリングオフ制度は、消費者が不意打ち的な勧誘で契約した場合に、一定期間内であれば無条件で契約を解除できる消費者保護制度です。 この制度は特定商取引法により定められており、訪問販売や電話勧誘販売など、消費者が冷静に判断できない状況での契約を対象としています。
クーリングオフの対象取引は以下の5つです:
重要なのは、すべての契約に適用されるわけではなく、法律で定められた特定の取引形態のみが対象となることです。また、通信販売にはクーリングオフ制度は適用されないため、混同しないよう注意が必要です。
訪問販売でのクーリングオフ期間は8日間で、契約書面を受け取った日から起算されます。 訪問販売には、販売員が自宅や勤務先を訪問する従来の形態に加え、キャッチセールス、アポイントメントセールス、催眠商法なども含まれます。
特に注意すべきは、店舗での契約であっても訪問販売に該当する場合があることです。街頭で声をかけられて店舗に案内された場合や、販売目的を告げずに呼び出された場合は、店舗での契約でもクーリングオフの対象となります。
訪問販売のクーリングオフでは、消費者は損害賠償金や違約金を支払う必要がありません。また、既に代金を支払っている場合でも全額返金を受けることができ、商品の返送費用は事業者負担となります。
電話勧誘販売のクーリングオフ期間も8日間で、事業者から電話で勧誘を受けた契約や、電話をかけさせられた契約が対象となります。 現代では、固定電話だけでなく携帯電話やインターネット電話による勧誘も含まれ、勧誘の手法が多様化しています。
電話勧誘販売の特徴は、消費者が商品を直接確認できない状態で契約を迫られることです。販売員の巧妙な話術により、冷静な判断ができないまま契約してしまうケースが多発しています。
クーリングオフの効力は、書面または電磁的記録による通知が事業者に到達することで発生します。電話での口約束では効力が認められないため、必ず書面による手続きが必要です。
連鎖販売取引(マルチ商法)のクーリングオフ期間は20日間と、他の取引形態より長期間設定されています。 これは、連鎖販売取引の仕組みが複雑で、消費者が契約内容を十分理解するのに時間を要するためです。
連鎖販売取引とは、他の人を販売組織に加入させると利益が得られるなどと勧誘し、商品購入などの金銭的負担をさせる契約のことです。一見すると魅力的なビジネスモデルに見えますが、実際には多くの参加者が損失を被る構造となっており、消費者保護の観点から厳しく規制されています。
店舗での契約であってもクーリングオフの対象となる点が特徴的です。これは、連鎖販売取引では勧誘者と被勧誘者の間に人間関係があることが多く、断りにくい状況で契約に至るケースが多いためです。
特定継続的役務提供のクーリングオフ期間は8日間で、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスが対象となります。 これらのサービスは、契約金額が5万円を超え、かつ一定期間を超える継続的なサービス提供が特徴です。
店頭での契約であってもクーリングオフの対象となる点が重要です。これは、これらのサービスが長期間にわたる契約であり、消費者が将来の状況変化を十分に予測できない状況で契約を締結することが多いためです。
クーリングオフを行う場合、既に受けたサービスの対価を支払う必要はありません。また、入会金や教材費なども含めて全額返金の対象となります。
クーリングオフは書面(ハガキ可)または電磁的記録で行う必要があり、2022年6月1日から電子メールやウェブサイトのクーリングオフ専用フォームでも通知可能になりました。 重要なのは、期間内に通知を発信することで、事業者への到達は期間後でも有効です。
書面による通知の場合、ハガキの両面をコピーし、特定記録郵便または簡易書留で送付することが推奨されます。記載すべき内容は、契約年月日、契約者名、購入商品名、契約金額、クーリングオフの通知を発した日などです。
電磁的記録による通知では、まず契約書面を確認し、事業者が指定する通知先や方法があればそれに従います。証拠保全のため、関係書類や記録データは5年間保存することが推奨されています。

消費者契約法は、事業者と消費者の間にある情報格差や交渉力の差を是正するため、消費者に一方的に不利な契約条項を無効とする重要な法律です。 返品に関する条項についても、消費者の正当な権利を過度に制限する内容は法的に無効となります。
無効になる不当な返品条項は以下の7つです:
ECサイト運営者は、これらの規制を理解せずに返品ポリシーを策定すると、条項が無効となり予期しない返品対応を強いられる可能性があります。
「いかなる理由があっても返品・交換は一切できません」という条項は、消費者契約法第8条の2により無効とされます。 この条項は消費者の解除権を完全に放棄させるものであり、消費者の正当な権利を不当に制限するためです。
重要なのは、この条項が無効になっても、すべての場合で返品が可能になるわけではないことです。商品に破損や不具合がある場合、契約内容と異なる商品が届いた場合など、事業者側に責任がある場合に限り返品が認められます。
ECサイトでは「返品不可」と表示していても、法的には商品の瑕疵や契約不適合がある場合の返品義務は免れません。適切な対応を行うためには、「お客様都合による返品はお受けできませんが、商品の不良や破損については交換・返金いたします」といった具体的な表現を用いることが推奨されます。
消費者が負担するキャンセル料が「平均的損害」を超える部分は、消費者契約法第9条により無効となります。 例えば、結婚式場で「契約後のキャンセル料は予定日の1年以上前でも契約金額の80%」とする条項は、実際の損害を大幅に超えるため無効とされる可能性が高くなります。
平均的損害とは、同種の契約において一般的に生じる損害の平均額を指します。ECサイトにおいても、受注生産品のキャンセル料を設定する際は、実際にかかる材料費や人件費を基準とし、懲罰的な金額設定は避ける必要があります。
また、遅延損害金についても年利14.6%を超える部分は無効となります。過度なペナルティは消費者の信頼を損なうだけでなく、法的にも無効となるリスクがあります。
消費者契約法第10条は、民法等の規定と比較して消費者の権利を制限し、かつ信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項を無効としています。 この規定は包括的な条項であり、具体的に列挙されていない不当な条項についても無効とする可能性があります。
例えば、民法では「商品の種類・品質が契約内容に適合していない場合、その事実を知ったときから1年以内に通知すること」が定められているにもかかわらず、正当な理由なくこの期間を「3日以内」などに短縮する条項は無効とされます。
ECサイトにおいても、「商品到着後24時間以内に連絡がない場合は一切の苦情を受け付けません」といった条項は、消費者の正当な権利を過度に制限するものとして無効となる可能性があります。
事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任を完全に免除する条項は、消費者契約法第8条により無効となります。 「当社は商品の欠陥により生じたいかなる損害についても一切責任を負いません」といった条項は、事業者の故意・過失による損害まで免責するため無効です。
ただし、軽過失による損害について一定の制限を設けることは可能です。例えば「当社の軽過失による損害については、商品代金を限度として賠償責任を負います。ただし、故意または重過失による場合はこの限りではありません」といった条項は有効とされる可能性があります。
免責条項を設ける場合は、免責の範囲を明確にし、故意・重過失の場合は除外することを明記する必要があります。曖昧な表現は消費者の誤認を招き、条項全体が無効となるリスクがあります。
法律で定められた期間を不当に短縮する返品期間の設定は、消費者契約法第10条により無効となる可能性があります。 特に、商品の性質上、消費者が品質や適合性を確認するのに必要な合理的期間を大幅に下回る設定は問題となります。
通信販売では特定商取引法により8日間の法定返品権が認められており、これを「到着当日のみ」などに短縮することは不当です。また、契約不適合責任に基づく通知期間を民法の規定(1年)から「3日以内」に短縮することも、正当な理由がない限り無効とされる可能性があります。
ECサイトでは商品の特性を考慮した合理的な期間設定が重要です。業界慣行や商品特性を踏まえた期間設定を行うことで、法的リスクを回避できます。
返品理由を不当に制限し、消費者の正当な権利行使を妨げる条項は無効となる可能性があります。 例えば、「商品の色が写真と異なる場合でも返品は一切受け付けません」といった条項は、事業者の説明義務違反による契約不適合を免責するものとして問題となります。
特に、ECサイトでは商品を実際に確認できないため、写真や説明文と実際の商品に大きな相違がある場合は、事業者側の責任として返品に応じる必要があります。「モニターの設定により色合いが異なって見える場合があります」といった注意書きは有効ですが、明らかに異なる商品を送付した場合の免責は認められません。
適切な返品理由の設定では、消費者都合と事業者責任を明確に区分することが重要です。
事業者側に責任がある返品について、返送料を消費者に負担させる条項は不当とされる可能性があります。 商品の不良、破損、契約内容との不適合など、事業者の責任による返品では、返送料も事業者が負担するのが原則です。
消費者都合による返品の場合は、返送料を消費者負担とすることは一般的に認められています。ただし、返送料が商品価格に比べて著しく高額な場合は、実質的に返品を不可能にする条項として問題となる可能性があります。
適切な返送料負担の設定では、責任の所在を明確にすることが重要です。「不良品・誤送品の場合は返送料当社負担、お客様都合の場合は返送料お客様負担」といった明確な区分を示すことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

返品に関する法的ルールは、取引形態によって大きく異なります。 ECサイト運営者は、自社が扱う商品の特性や販売方法に応じて、適切な返品ポリシーを策定する必要があります。
取引形態別の返品ルールは以下の6つです:
通販・実店舗・デジタルコンテンツ・食品・オーダーメイド・中古品など、それぞれに固有の法的制約や業界慣行があり、これらを理解せずに一律の返品ルールを適用すると、法的トラブルや顧客満足度の低下を招く可能性があります。
通信販売(ECサイト)では、特定商取引法により8日間の法定返品権が認められています。 この権利は、商品受け取りから8日以内であれば、消費者が理由を問わず一方的に契約を解除できるものです。ただし、事業者が返品特約を適切に表示した場合は、この法定返品権を制限することが可能です。
重要なのは、通信販売にはクーリングオフ制度は適用されないことです。代わりに法定返品権という独自の制度が設けられており、返品時の送料は消費者負担となることが法律で明確に定められています。
法定返品権を制限する場合は、「返品不可」や具体的な返品条件を12ポイント以上の文字サイズで明確に表示する必要があります。曖昧な表現は無効とされるため、「返品についてはその都度相談に応じます」といった記載は避けるべきです。
実店舗での購入では、法的な返品権は基本的に存在せず、返品は事業者のサービスとして位置づけられています。 日本では「事業者は消費者の返品に応じる義務がある」という法律は存在しないため、返品を受け付けるかどうかは完全に店舗側の判断に委ねられています。
実店舗では、商品を直接確認して購入できるため、通信販売のような法定返品権は設けられていません。多くの店舗では「自己都合による返品は受け付けない」というポリシーを採用しており、これは法的に有効です。
返品を受け付ける場合でも、レシートの提示が必須となることが一般的です。返品条件や受付期間がレシートに記載されている場合も多いため、購入時の確認が重要です。
デジタルコンテンツは、その性質上、原則として返品・キャンセルができません。 電子書籍、ダウンロード音楽、オンライン講座、ソフトウェアなどは、一度提供されると複製や転用が容易であるため、消費者保護の観点からも返品制限が認められています。
ただし、一部のプラットフォームでは条件付きで返品対応を行っています。Amazonの Kindleでは、注文確定直後の即時キャンセルや、誤注文かつ注文日を含めて7日以内であればAmazonの裁量により対応可能です。
デジタルコンテンツ販売では、商品の性質を明確に説明し、返品不可であることを事前に告知することが重要です。ただし、ファイルの破損や読み込み不可能などの瑕疵がある場合は、良品の再提供義務があります。
食品の返品については、食品衛生の観点から特別な配慮が必要です。 特定商取引法の法定返品権は食品にも適用されますが、事業者は食品衛生を理由として返品特約で制限することが一般的に認められています。
開封済み食品の取り扱いは複雑で、個別包装された商品の一部を消費した場合は、消費した分を減額して返金することが考えられます。例えば、10個入りの商品のうち2個を消費した場合、8個分の代金を返金する対応が適切です。
未開封の食品であれば返品に応じることが多いものの、賞味・消費期限を過ぎている場合は返品を断ることができます。食品ECでは、「開封済み商品については食品衛生上の理由により返品をお受けできません」といった明確な特約表示が必要です。
オーダーメイド・受注生産品は、注文者の体型や仕様に合わせて製作されるため、基本的に返品は困難です。 これらの商品は他の顧客への転売が不可能であり、返品されても事業者にとって無価値となるため、返品制限が正当化されやすい商品です。
オーダースーツを例にとると、「なんとなく思っていたイメージと違う」「出来栄えがイマイチ」といった曖昧な理由では返品を受け付けてもらえません。ただし、事業者側の明確なミス(採寸ミス、裁断ミス、生地の傷など)がある場合は、返品や仕立て直しの対象となる可能性があります。
受注生産品では、製作開始前と開始後で取り扱いが大きく異なります。製作開始前(裁断前)であればキャンセルが可能ですが、製作開始後は一切のキャンセルを受け付けないとする事業者が多数です。
中古品・アウトレット商品は、商品の性質上、返品制限が認められやすい商品です。 これらの商品は既に使用済みであったり、何らかの瑕疵を含んでいることが前提となっているため、一般的な新品とは異なる返品ルールが適用されます。
中古品販売では「原則返品はお受けできません」とする事業者が多く、商品ページに記載のない不具合がある場合のみ返品を受け付けるケースが一般的です。アウトレット商品では、「傷・スレ・シミ・ほつれ等がある場合がございます」といった事前告知により、これらを理由とした返品を拒否することが可能です。
ただし、消費者契約法により、事業者の行為により消費者に錯誤があった場合は返品が認められる可能性があります。中古品ECでは、商品の状態を詳細に記載し、「記載済みの不具合を理由とした返品はお受けできません」といった明確な条件提示が重要です。

ECサイト運営者は、返品対応において複数の法的義務を負っています。 特定商取引法、個人情報保護法、景品表示法などの規制により、適切な表示義務、誤認防止義務、適切な対応義務、個人情報保護義務が課されています。
事業者が守るべき法的義務は以下の4つです:
これらの義務を怠ると、行政処分や損害賠償責任を負うリスクがあるため、正確な理解と適切な対応体制の構築が不可欠です。
特定商取引法により、ECサイト事業者は返品条件を明確に表示する義務があります。 この表示義務を怠ると、法定返品権が復活し、商品受け取りから8日間は理由を問わず返品を受け付けなければなりません。
表示義務には厳格な要件があります。商品ページでは12ポイント以上の文字サイズで、返品の可否、条件、送料負担について明瞭に表示する必要があります。さらに、最終確認画面でも同様の表示が義務付けられており、この表示を怠ると返品特約が無効となるリスクがあります。
適切な表示例としては、「お客様都合による返品は商品到着後7日以内、未開封・未使用に限り承ります。返送料はお客様負担となります」といった具体的な条件提示が推奨されます。
特定商取引法第12条により、事業者は誇大広告や消費者を誤認させる表示を行ってはならないとされています。 返品に関する表示においても、実際の対応と異なる内容や、消費者に有利であるかのような誤解を招く表現は禁止されています。
例えば、「安心の返品保証」と大きく表示しながら、実際には厳しい条件が設けられている場合は、消費者を誤認させる表示として問題となります。また、「無条件返品可能」と表示しながら、実際には送料や手数料を消費者に負担させる場合も、誤認を招く表示として違法性が問われる可能性があります。
適切な表示では、返品条件を正確かつ分かりやすく記載し、消費者が誤解しないよう配慮することが重要です。
事業者は、顧客から返品依頼があった際に、返品ポリシーに基づいた適切な対応を行う義務があります。 この義務には、迅速な対応、丁寧な説明、適切な手続きの実施が含まれます。
返品受付時の対応手順では、まず返品理由と商品状態を確認し、返品ポリシーに基づいて受付可否を判断します。受付可能な場合は返送方法を案内し、受付不可の場合はその理由を明確に説明する必要があります。
適切な対応により、法的トラブルを防止し、顧客満足度を維持することが可能です。返品対応マニュアルを整備し、スタッフ間で統一した対応を行うことで、一貫性のある高品質なサービス提供が実現できます。
返品対応では、個人情報保護法に基づいた適切な個人情報の取扱いが義務付けられています。 返品処理において収集・利用する個人情報は、利用目的を明確にし、必要最小限の範囲で取り扱う必要があります。
返品に関連する個人情報には、顧客の氏名・住所・電話番号・購入履歴・返品理由などが含まれます。これらの情報は返品処理、代金決済、アフターサポートの目的でのみ利用可能であり、目的外使用は禁止されています。
個人情報の安全管理措置として、アクセス制限、暗号化、定期的な監査などの技術的・組織的対策を講じる必要があります。個人情報の取扱いに関する苦情や開示請求があった場合は、適切な窓口を設置して対応する義務があります。

海外通販・越境ECでの返品は、国内取引と比較して複雑かつ高コストな問題となります。 海外の返品率は日本の5-10%に対してアメリカや中国では25%程度と非常に高く、返品に対する意識や法制度も大きく異なります。
海外通販での注意点は以下の3つです:
越境ECでは、輸送距離の長さ、通関手続き、言語の壁、法制度の違いなどにより、返品対応が複雑化します。適切な知識なしに海外展開を行うと、予期しない返品コストや法的トラブルに直面するリスクがあります。
海外事業者との取引では、日本の特定商取引法による保護が限定的となります。 日本語表示のサイトであれば特定商取引法の適用が考えられますが、海外サイトでは相手国の法律が優先されるケースが多くなります。
アメリカでは連邦法レベルで消費者都合の返品を義務付ける規制は存在せず、州法で規定されていない限り事業者判断で返品を拒否することが可能です。一方、EUでは消費者権利指令により14日間の返品権が認められており、台湾では消費者保護法により7日間の返品保証が義務付けられています。
各国の法制度の違いにより、同じ商品でも返品可否が大きく異なることがあります。中国では「ネット通販、7日以内無条件返品暫定法」により7日間の無条件返品が可能ですが、韓国では7日以内の返品権はあるものの3営業日以内の返金手続きが事業者に義務付けられています。
海外通販での返品では、関税と送料の二重負担が大きな問題となります。 商品購入時に支払った関税は、返品時に自動的に返金されることはなく、別途税関での還付手続きが必要です。
関税の還付を受けるには、「輸入が許可されてから6月以内」「輸入時の性質及び形状に変更が加えられていない」という条件を満たし、返送前に税関に5通の書類を添えて現物を提示する必要があります。しかし、手続きの複雑さと税関への出向く手間を考慮すると、少額の関税では実質的に還付申請が困難なケースが多くなります。
返送料についても高額になりやすく、商品価格を上回る場合もあります。EMSでは着払いができないため一旦立て替えが必要で、DHLやUPSでは着払い可能ですが料金が高額になる傾向があります。
海外通販トラブルの専門相談窓口として、国民生活センターの越境消費者センター(CCJ)が設置されています。 CCJでは、海外ショッピングに関するトラブル相談を受け付け、解決方法のアドバイスや英語翻訳支援を提供しています。
CCJの相談は、ウェブ上の相談受付フォームまたはFAXで受け付けており、電話での相談は行っていません。複数国の海外窓口機関と連携しており、必要に応じて海外機関を通じて相手国事業者に相談内容を伝達し、対応を促すサポートも行っています。
効果的なトラブル対処では、証拠保全と迅速な対応が重要です。商品の破損や不良品については写真撮影、注文内容との相違については注文確認メールと商品の比較、配送遅延については追跡番号の記録などが必要です。

返品に関する法律について、ECサイト運営者から寄せられる質問は多岐にわたります。 特に開封済み商品の取り扱い、セール品の返品可否、返品理由の妥当性、送料負担、返金期間などは、日常的に発生する実務上の重要な問題です。
よくある質問は以下の5つです:
これらの疑問に対する正確な理解がなければ、適切な顧客対応ができず、法的トラブルや顧客満足度の低下を招く可能性があります。
開封済み商品であっても、法定返品権の行使は可能です。 特定商取引法の法定返品権では、開封したことを理由に権利行使ができなくなるわけではなく、商品到着から8日以内であれば開封済みでも返品を受け付ける必要があります。
ただし、食品などの消耗品については特別な取り扱いが必要です。個別包装された商品の一部を消費した場合は、消費した分を減額して返金することが適切とされています。例えば、10個入りのチョコレートのうち2個を消費した場合、8個分の代金を返金する対応が考えられます。
使用済み商品の返品を制限したい場合は、返品特約で明確に表示することが重要です。衛生用品や食品については、食品衛生の観点から返品制限が正当化されやすい商品です。
セール品やタイムセール商品であっても、法的には通常商品と同じ返品ルールが適用されます。 価格が安いことを理由に、法定返品権や契約不適合責任を免除することはできません。消費者契約法により、消費者の正当な権利を不当に制限する条項は無効となるためです。
ただし、事業者は返品特約により「セール品・アウトレット品は返品不可」と表示することで、法定返品権を制限することが可能です。この場合、商品ページと最終確認画面の両方で、12ポイント以上の文字サイズで明瞭に表示する必要があります。
重要なのは、商品の不良や契約内容との不適合がある場合は、セール品であっても返品・交換に応じる義務があることです。
「イメージと違う」という理由での返品は、法定返品権の対象となります。 特定商取引法の法定返品権では、消費者は理由を問わず8日以内であれば返品が可能であり、商品に欠陥がなくても、写真や説明に嘘偽りがなくても返品できるとされています。
ただし、事業者が適切な返品特約を表示している場合は、この限りではありません。「お客様都合による返品はお受けできません」という特約を明示することで、イメージ違いを理由とした返品を拒否することが可能です。
ECサイトでは商品を実際に確認できないため、写真や説明文の充実が重要です。「モニターの設定により色合いが異なって見える場合があります」といった注意書きを記載することで、色の違いを理由とした返品を予防できます。
返品時の送料負担は、返品理由により異なります。 法定返品権に基づく返品では、特定商取引法により送料は消費者負担と明確に定められています。一方、商品の不良や契約内容との不適合など、事業者側に責任がある場合の返品では、返送料も事業者が負担するのが原則です。
消費者都合による返品の場合、返送料を消費者負担とすることは一般的に認められています。ただし、返送料が商品価格に比べて著しく高額な場合は、実質的に返品を不可能にする条項として問題となる可能性があります。
適切な送料負担の設定では、責任の所在を明確にすることが重要です。「不良品・誤送品の場合は返送料当社負担、お客様都合の場合は返送料お客様負担」といった明確な区分を返品ポリシーに記載することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
返金までの期間について、法律で明確な期限は定められていませんが、民法の債務履行に関する規定により「相当な期間内」での対応が求められます。 一般的には、返品商品の到着確認から1週間から2週間程度での返金処理が適切とされています。
クレジット決済の場合は、決済代行会社との契約により返金処理の期限が定められていることがあります。多くの決済代行会社では、返品処理から30日以内の返金手続きを求めており、これを超えると手数料が発生する場合があります。
返金遅延により消費者に損害が生じた場合は、遅延損害金の支払い義務が発生する可能性があります。適切な返金期間を返品ポリシーに明記し、「返品商品到着確認後、10営業日以内に返金手続きを行います」といった具体的な期間を提示することで、顧客の信頼関係を維持できます。
返品の法律を正しく理解することは、ECサイト運営の成功に直結します。特定商取引法の法定返品権、消費者契約法の不当条項規制、民法の契約自由の原則を適切に活用し、商品特性に応じた返品ポリシーを策定しましょう。「返品は面倒」ではなく「顧客との信頼関係を築くチャンス」と捉えることが重要です。
法的義務を果たしながら、顧客に寄り添った対応を心がけることで、返品率の低下と顧客満足度の向上を同時に実現できます。今こそ返品対応を見直し、法的リスクを回避しながら競合他社との差別化を図る絶好の機会です。適切な知識に基づいた返品対応により、持続的な事業成長を実現しましょう。
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