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2026年 EC業界 5つの変革トレンド|テクノロジーが顧客体験を再定義する

2026/6/24
メディア

執筆者:亀井智英(株式会社ネクストラボ 代表取締役) 

前回は、円安・物価高の逆風下で「値上げの覚悟」を持ち、商品の背景にある物語や文脈を通じて顧客の心に響く形で価値を伝える「ナラティブ」の手法を通じて価値を正しく伝える重要性をお伝えしました。

では2026年のEC現場で、その「価値」をどう届け、顧客体験を最大化していくべきか。今回は、2026年EC業界における5つの変革トレンドを解説します。

トレンド1:AIカスタマーサポートの進化 ——「使えないチャットボット」時代の終焉

従来のFAQ型チャットボットは、事前に設定した応答通りに作動する「動かないマニュアル」でした。設定済みのシナリオをなぞるだけで、複雑な質問には「担当者におつなぎします」と返す。顧客が求めるのは「解決」ですが、柔軟さに欠けるこれまでのシステムには顧客のニーズに応える力が不足していました。

私が複数のチャットサービスベンダーおよびEC事業者へのヒアリングで確認したところ、現状の「シナリオ+AI」で顧客が自己解決できる割合は平均3〜5割。残り5〜7割はシステム連携の未整備により人間が介入せざるを得ない「自動化の壁」として残されています。これが、2025年末時点のリアルな現在地です。

AIが「書き換え」まで担う時代が到来

しかし2026年、この壁はAIが外部システムと標準化された方法で連携する共通規格「MCP」(Model Context Protocol/生成AIスタートアップAnthropicが2024年11月に発表)の普及によって崩れ始めます

革新の本質は、AIが企業の基幹データ(購買履歴・在庫・配送状況)をリアルタイムに「参照」し、自律的に「書き換え」まで行える点にあります。

たとえば、ユーザーからの「この商品は私に合いますか?」という問いかけに対し、AIがユーザーの過去の購入履歴やサイズ相談ログから、熟練の接客経験や商品知識が豊富な店員のように回答を返す。ユーザーからの「配送先住所を間違えた」というチャットには、AIが新住所を特定し、物流システムのデータをその場で書き換えるようになります。このように、従来は担当者が管理画面を開いて行っていた作業を、AIが「実行」まで担うのです。

これは単なるコスト削減にとどまりません。AIが柔軟性を持って顧客からの問い合わせ対応というルーチンワークをこなすことで、CSスタッフは「ブランドのナラティブ(ストーリー)をどう磨くか」というクリエイティブな仕事に集中できます。CSは人的コストを割く「コストセンター」から「ブランドの理解者を育てる場所」へ変わるのです。

トレンド2: ハイパーパーソナライゼーション |一律セールの終焉

AIによるCSの進化で「守り」を固めたなら、次は「攻め」の顧客体験です。

かつてECのセールといえば、全会員に同じメルマガ、同じ割引率を付与するのが常識でした。しかし2026年、こうした「一律セール」を続けることは、会員から「このブランドは何も考えていない」と見られるリスクをはらみます。最先端のパーソナライゼーションを実装していないこと自体が、「会員1人ひとりを理解しようとしないブランド」と受け取られかねないのです。

顧客ごとのセグメントで特別感を演出

めざすべきは、顧客1人ひとりに最適化された「自分だけのオファー」を届けるハイパーパーソナライゼーションです。次のような施策が考えられます。

  • LINEのセグメント配信、会員ランクの設定、AIが予測する購買傾向を掛け合わせる
  • VIP顧客には一般公開前の「先行案内」を、休眠顧客には過去の好みを踏まえた「強力な復帰オファー」を提示する

この戦略が強力なのは、「自分だけが特別に扱われている」優越感と「今この瞬間だけの条件」という緊急性を同時に演出できる点です。これがCVRを押し上げます

CRMの整備や、ハイパーパーソナライゼーションが可能な配信基盤があることが前提となるため、ハイパーパーソナライゼーション施策は現状では先進的な事業者が先行している段階ですが、2026年は「セール」の意味を単なる「安売り」から「1人ひとりに向けた特別な提案」へと変える転換点になります。

トレンド3:ブランド公式リユース(リコマース)の台頭 ——参入前に問うべき「一つの問い」

出典:米ThredUp|2026 Resale Report

パーソナライズされた体験で高めたブランド価値。それが本物かどうかは、二次流通市場で試されます。

ブランドが自社製品を買い取り、修理して再販売する「リコマース(ブランド公式リユース)」が注目を集めています。市場の追い風も大きく、ThredUpは世界のリセール市場が2027年に約3,240億ドル規模へ達すると予測しています。

ただし、この数字には注意も必要です。同社の予測は2023年時点の約3,500億ドルから下方修正されており、成長期待には一定の留保が求められます。それでも、パタゴニアの「Worn Wear」、ユニクロのリペアサービス、三陽商会のリユース参入など、大手ブランドの動きは確実に活発化しています

参入前に問うべき、たった一つの問い

しかし、EC担当者が冷静に問うべきは一点だけです。「自社がリコマースに参入して、本当に利益が出るか」

リコマースのオペレーションは、想像以上に重たいものです。買取、品質検品、修理、再撮影、再販売、返品対応—これらをすべて自社で回すコストは、もともと薄利なEC事業の収益構造を容易に圧迫します

かといって外注(リユース専業プレイヤーへの委託)を選んでも、中間マージンが発生し、利益貢献は限定的になりがちです。事実、現時点でこの領域で明確に収益を上げているのは、セカンドストリート・コメ兵・バリュエンスといったリユース専業企業であり、一般のEC事業者ではありません。参入企業の行く先は、まだ見守るべきフェーズだといえます。

大多数の現実解は「二次流通市場のモニタリング」

では、大多数のEC事業者にとっての現実解は何か。それは「自社ブランドが二次流通市場でどう評価されているかを把握し、商品設計と価格戦略にフィードバックする」ことです。

メルカリやフリマアプリでの自社商品の流通価格は、顧客がそのブランドに付けているリアルな評価そのものです。

着目すべきは、「値崩れしていないか」「どのカテゴリーが支持されているか」、そしてとりわけ「新古品(未使用品)」が定価に対してどの程度の価格を維持しているか。これらを定期的にモニタリングすることは、新品ECの価格戦略を守るうえでも欠かせない情報源になります。

ただし、リセールバリューを証明できるほどのブランド力を持つ事業者は話が別です。二次市場で値崩れせず、中古品にも一定の需要があると確認できるなら、自社リコマースへの本格参入を検討する価値があります。見極めの基準は「ブランドのリセールバリューが証明されているか否か」——これが、2026年のEC担当者に求められるリコマースの現実的な判断軸です。

参照:Worn Wear | Patagonia / RE.UNIQLO STUDIO / SANYO RE: PROJECT

トレンド4:CtoC市場の成熟 ——新品ECを「守る」ための視点

出典:メルカリショップHP

リコマースの判断軸を支えるのが、成熟したCtoC市場の存在です。

経済産業省の調査(2025年8月発表)によれば、2024年のCtoC-EC市場規模は2兆5,269億円(前年比1.82%増)に達しました。個人間ECは、すでに成熟段階に入っています。「メルカリShops」の普及で個人と事業者の境界線はさらに曖昧になり、誰もが手軽にECへ参入できる環境が整いました。

「中古品への抵抗感」の消滅が、新品の買い方を変えた

特筆すべきは、消費者の「中古品への抵抗感」が激減したことです。リセールバリュー(再販価値)を考慮して新品を購入する——この行動様式は、もはやスタンダードになりました。

ここで重要なのは、ブランド公式リユースとCtoC市場は「競合」ではなく「共存」の関係にあるという視点です。CtoCで流動性が高まるほど、そのブランドの資産価値が市場で証明され、結果として新品の価値も守られます

この「共存」のエコシステムを理解し、自社ブランドが二次流通市場でどう評価されているかを把握しておく。それが、2026年の戦略には欠かせません。

トレンド5:物流革新 ——「速さの価値化」と「遅さの設計」

どれだけ素晴らしい商品と体験を提供しても、顧客の手元に届く「物流」が伴わなければ意味がありません。

中国や米国では自動化配送の実用化が進んでいる一方、日本国内の規制環境や住宅事情では実証実験の域を出ていません。

出典:アリババ 菜鳥速递HP

注目すべきは「速さの価値化」と「遅さの設計」という二極化の兆しです。Amazonは2025年1月、関東の一部地域で最短6時間配送の専用ストア「エクスプレスマート」を開始し、プライム会員でも一定金額未満の注文には200円の送料を導入。「配送の速さはプライム会員への付加価値」と再定義しながら、その速さにも無料送料ラインという条件をつけました。 

Amazonはプライム会員への付加価値を再定義した価格で、配送が最速となる当日便を提供している 

一方で「ゆっくり配送」オプションも試験導入し、通常より数日遅い配送を選ぶと約1%の割引が受けられる仕組みも始まっています。

「速く届けたい人は対価を払う、急がない人はコストを下げる」——という配送体験の価格帯別設計が、日本のトッププレイヤーで現実のものになっています。

国内ECで実際に効くのは、ドローン配送のような派手な打ち手ではありません。ドローンは過疎地での実証は進むものの、都市部の日常配送に組み込まれる現実は当面来ないでしょう。

地に足のついた打ち手は、倉庫内ロボットによる省人化、ギグワーカー・プラットフォームのAI最適化、AIが在宅時間を予測し配送ルートを組む「最適配送時間帯の予測」です。「一律の即日配送」を追うのではなく、顧客の優先軸で配送体験を切り分けることが、昨今のコスト高騰下で利益を残す道です。 

5つのトレンドが突きつける「二極化」の現実

AIによるCSの自律化、ハイパーパーソナライゼーション、リコマースの現実解、CtoC市場との共存、物流の最適化——これらは独立した事象ではなく、「顧客体験(CX)をどう再定義し、収益性を高めるか」という一つのテーマでつながっています。

そしてEC事業者の間では、すでに「二極化」が始まっています。テクノロジーを味方につけ顧客とのナラティブを深める企業と、旧態依然としたオペレーションで価格競争に巻き込まれる企業——両者の差はもう取り戻せないところまで広がります。

筆者プロフィール

亀井智英(かめい・ともひで)

株式会社ネクストラボ 代表取締役 / Customer Growth Officer

亀井智英(株式会社ネクストラボ 代表取締役)

Tokyo Otaku Modeの創業者として、同社の成長期(メディア&越境EC事業)に貢献。現在は小学館グループ傘下で事業を継続している。

2021年に株式会社ネクストラボを設立。TOM時代にEC事業者が抱えるバックオフィス業務の課題に着目し、カスタマーサポート業務自動化プラットフォーム「バクアゲ」を開発。返品対応、送金処理、住所確認といった煩雑な業務を完全自動化して、オペレーションコストをバクハツ的に削減する。大手EC事業者やリユース事業者に導入されている。

ネクストラボは現在、大手企業から教育研究機関まで1万を超える企業・個人にサービスを提供している。

バクアゲ:https://bakuage.co/

X:https://x.com/henpinkun

ネクストラボ:https://nextlabs.jp/

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