ECサイト運営において、「返品交換できません」という一言をどう伝えるかは、売上と顧客の信頼を左右する重要な課題です。安易な「返品不可」の表示は、知らないうちに法律違反のリスクを招き、購入をためらう顧客を増やしているかもしれません。この記事では、返品に関する正しい法律知識から、顧客との信頼を損なわない「返品交換できません」の例文、さらには返品対応を売上向上のチャンスに変える戦略まで、EC事業者が知るべき全てを網羅的に解説します。法的リスクを回避し、顧客満足度を高め、ビジネスを成長させるための具体的なノウハウを、今すぐ手に入れてください。

返品対応を単なる顧客サービスの問題と捉えるのは危険です。その根底には、EC事業者が必ず守るべき法律のルールが存在します。この章では、法的リスクを回避し、自信を持って事業を運営するための土台となる3つの必須知識を解説します。
はい、インターネット通販やテレビショッピングなどの通信販売には、法律上のクーリング・オフ制度は原則として適用されません。
クーリング・オフは、訪問販売や電話勧誘販売のように、消費者が不意打ち的に勧誘され、冷静に判断する時間がないまま契約してしまった場合に、頭を冷やして考え直すために設けられた制度です。
一方で、通信販売は消費者が広告を見て自らの意思で商品を選び、購入する形態です。そのため、不意打ち的な勧誘から保護する必要性が低いと考えられており、クーリング・オフの対象外とされています。この大原則を知らないと、顧客からの誤った要求に混乱してしまう可能性があるため、まず最初にしっかりと理解しておくことが重要です。
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クーリング・オフがない代わりに、通信販売の返品ルールを決定づけるのが「返品特約」です。しかし、もし事業者が返品に関する特約をサイト上に何も表示していなかった場合、特定商取引法に定められた「法定返品権」が適用されます。
法定返品権とは、消費者が商品を受け取った日を含めて8日以内であれば、送料を自己負担することで返品(契約の解除)ができるという法律上の権利です。
つまり、「返品について何も書かない」という選択は、意図せず「お客様都合でも8日以内なら返品を受け付けます」というルールに同意したことと同じ意味になります。返品を制限したいのであれば、その旨を明確に「返品特約」として表示する義務が事業者側にあるのです。この点を見落とすと、想定外の返品要求に応じざるを得ない状況に陥るため、注意が必要です。
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「返品不可」というルールを法的に有効にするには、その特約を「顧客が容易に認識できる場所」に「明確な言葉」で表示することが絶対条件です。
ただサイトのどこかに書いておけば良いというわけではありません。例えば、以下のような表示は無効と判断される可能性が高いです。
法的に有効と認められるためには、商品の価格や送料の近く、ショッピングカート内、そして特に重要なのが2022年6月から義務化された「注文確定前の最終確認画面」など、顧客が購入手続き中に必ず目にする場所に、十分な大きさや目立つ色で表示する必要があります。この表示義務を正しく果たして初めて、「お客様都合での返品はお受けできません」というルールが法的な効力を持つのです。
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法的基盤を整えたら、次はいよいよ実践的な顧客コミュニケーションです。同じ「お断り」でも、伝え方一つで顧客の印象は天と地ほど変わります。この章では、あらゆるシーンで使えるメール例文と、その背景にあるマナーやコツを解説します。
お客様都合の返品依頼を断る際は、まず顧客の気持ちに共感を示し、その上でルールに基づき丁寧にお断りすることが鉄則です。一方的に「できません」と突き放すのは、顧客の反感を買い、悪評につながる最悪の対応です。事前にサイト上で合意したルールを根拠に説明することで、顧客の納得感を引き出し、信頼関係の毀損を最小限に食い止めます。
【例文】
件名:【○○ストア】ご注文商品に関するご連絡
○○様
この度は、「○○ストア」をご利用いただき、誠にありがとうございます。
カスタマーサポート担当の○○です。
お問い合わせいただきました「商品名」の返品について、ご連絡いたしました。
お届けした商品がお客様のイメージと異なっていたとのこと、ご期待に沿えず誠に申し訳ございません。
大変恐れ入りますが、当店のウェブサイト「特定商取引法に基づく表記」ページにも記載の通り、お客様のご都合(イメージ違い、サイズ違い等)による返品・交換は原則としてお受けしておりません。
ご希望に沿えず大変心苦しいのですが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
○○ストア 担当:○○
セール品や受注生産品など、特別な条件の商品については、なぜ返品できないのかという理由を具体的に添えることで、顧客の納得度をさらに高めることができます。単なるルールとしてではなく、ビジネス上の合理的な理由があることを伝えることで、一方的な拒絶という印象を和らげる効果があります。
【例文】
件名:【○○ストア】ご注文のセール商品に関するご連絡
(基本の挨拶は省略)
大変恐れ入りますが、お問い合わせいただきました商品はセール対象品のため、特別価格にてご提供させていただいております関係上、返品・交換の対象外とさせていただいております。
この点につきましては、商品ページにも記載をさせていただいておりました。
ご希望に沿えず大変申し訳ございませんが、ご了承いただけますようお願い申し上げます。
(結びの言葉と署名)
「お客様のためだけに生産したオーダーメイド品のため」など、商品の特性に合わせた理由を記載するとより効果的です。
不良品や商品違いなど、店舗側に明らかな非がある場合は、何よりも迅速かつ真摯な謝罪が不可欠です。この初期対応が、ブランドの信頼を回復できるか、あるいは失墜させるかの分かれ道となります。顧客に一切の金銭的・時間的負担をかけない解決策(着払いでの返送、代替品の即時発送など)を具体的に提示し、安心感を与えることが重要です。
【例文】
件名:【○○ストア】お届けした商品の不備に関するお詫びと交換手続きのご案内
○○様
この度は、お届けいたしました「商品名」に不備がございましたこと、ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。
つきましては、早急に新しい商品を発送させていただきます。
また、お手数をおかけし大変恐縮ですが、お手元の不良品は、下記住所まで「着払い」にてご返送いただけますでしょうか。
【返送先住所】
〒XXX-XXXX…
原因を究明し、再発防止に万全を期して参ります。
この度の不手際につきまして、重ねてお詫び申し上げます。
返金対応を行う際は、「商品の受領時」と「返金手続きの完了時」に、都度連絡を入れることが顧客の安心につながります。顧客は「商品は無事に届いただろうか」「いつ返金されるのか」と不安に思っています。プロセスの進捗をこまめに報告することで、問い合わせを減らし、信頼関係を維持することができます。
【例文】
件名:【○○ストア】 ご返金手続き完了のお知らせ
○○様
いつも「○○ストア」をご利用いただきありがとうございます。
先日ご返送いただきました商品につきまして、本日、ご指定の口座への返金手続きが完了いたしましたので、ご連絡申し上げます。
金融機関によっては、実際の反映までにお時間がかかる場合がございますので、ご了承くださ<br>い。
この度はご迷惑をおかけいたしました。
またのご利用を心よりお待ちしております。
5.【交換案内】返品商品の受領と交換品発送を伝えるメール例文
交換対応の場合も、返金と同様に「返品商品の受領」と「交換品の発送」を段階的に報告することが、顧客満足度を高める鍵です。特に交換品の発送連絡では、配送業者の追跡番号を併記すると、顧客は自分で配送状況を確認できるため、より親切な対応となります。透明性の高いコミュニケーションが、顧客の不安を解消します。
【例文】
件名:【○○ストア】交換商品の発送のお知らせ
○○様
いつも「○○ストア」をご利用いただきありがとうございます。
ご返送いただきました商品の到着を確認いたしました。
つきましては、本日、交換商品を発送いたしましたので、ご連絡申し上げます。
配送業者:ヤマト運輸
お問い合わせ伝票番号:1234-5678-9012
お届けまで今しばらくお待ちいただけますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
海外の顧客に対応する際は、文化や言語の壁による誤解を避けるため、シンプルで直接的な定型表現を用いるのが最も安全かつ効果的です。状況に応じて使い分けられる、以下の基本的なフレーズを覚えておきましょう。
これらのフレーズを返品ポリシーや商品ページに明記しておくことで、海外顧客との無用なトラブルを防ぐことができます。
たとえ要望に応えられない場合でも、顧客からの信頼を維持するためには、以下の5つのマナーを徹底することが極めて重要です。これらのマナーは、対応の質そのものを決定づけます。
これらのマナーを守ることで、顧客は「ルール上は仕方ないが、誠実に対応してくれた」と感じ、店舗への悪印象を抱きにくくなります。
クレーム対応を単なる火消しで終わらせず、未来の関係構築につなげるためには、いくつかのコミュニケーション上のコツがあります。感情的な応酬を避け、建設的な対話を目指すことがポイントです。
これらの技術を駆使することで、クレーム対応は未来の優良顧客を育てる機会にもなり得ます。

これまでは返品をいかに防ぐかという「守り」の視点でしたが、ここからは視点を180度転換します。実は、厳しい返品ポリシーが知らず知らずのうちに売上を下げている可能性があります。この章では、返品ポリシーを「攻め」のマーケティングツールとして活用し、売上を伸ばすための戦略を解説します。
結論から言うと、「買って失敗したらお金が無駄になる」という購入前の不安を、「返品不可」の表示が決定的にしてしまうからです。
ECサイトでは商品を直接手に取って確認できないため、顧客は常に「イメージと違ったらどうしよう」「サイズが合わなかったらどうしよう」というリスクを感じています。ここに「いかなる理由でも返品はできません」という厳しいルールがあると、そのリスクを顧客が100%負うことになります。
この心理的圧力が、購入の最終的な決断をためらわせ、カートに商品を入れたままサイトを離脱する「カゴ落ち」の大きな原因となるのです。特に、初めて利用する店舗や高価な商品、アパレル製品などでこの傾向は顕著になります。
逆に、分かりやすく安心感のある返品ポリシーは、顧客の購入に対する心理的ハードルを劇的に下げ、コンバージョン率 (CVR)の向上に直接貢献します。
「もし合わなくても返品できる」という安心感は、顧客が抱える「損をしたくない」という強力な心理(損失回避性)を和らげます。これにより、「一度試してみようかな」という前向きな気持ちを後押しし、購入ボタンを押す最後の一押しとなるのです。
実際に、あるアパレル企業が返送料無料キャンペーンを実施したところ、返品率はほとんど上がらなかったにもかかわらず、売上は1.5倍に増加したという事例もあります。これは、「返品できる」という安心感が、実際に返品する顧客を増やす以上に、購入を決断する顧客を増やす効果の方が大きいことを示しています。
ロコンドやNikeのような先進的な企業は、返品を単なるコストではなく、顧客体験を向上させるための戦略的な投資と位置づけ、大きな成功を収めています。
「自宅で試着、気軽に返品」をキャッチフレーズに、靴やアパレルECの最大の弱点である「試着できない」という問題を解決しました。顧客は自宅で心ゆくまで試し、合わないものだけをコンビニから簡単に返品できる。この圧倒的な利便性が、強力な競争優位性を生み出しています。
「30日間返品無料」という明確で寛大なポリシーを打ち出しています。これは単なる顧客サービスではなく、「自社製品に対する絶対的な自信」の表明であり、ブランドの信頼性を高める強力なメッセージとなっています。高価なスニーカーでも、顧客はこのポリシーがあることで安心して購入を決断できます。
これらの事例は、返品対応が顧客の不安を取り除き、信頼を勝ち取るための強力な武器になり得ることを示しています。
もちろん、すべてのECサイトが「返品無料」にすべきではありません。最適なポリシーは、扱う商材の特性、利益率、ターゲット顧客などを総合的に考慮して決定すべきです。
一般的に、アパレルや靴などサイズ感が重要な商品は返品率が高く、規格が統一された家電や消耗品などは低い傾向にあります。自社の状況に合わせて、以下の選択肢から最適なバランスを見つけましょう。
| ポリシーの種類 | 特徴 | 適した商材・状況 |
| 完全返品不可 | 顧客都合の返品を一切受け付けない。 | 受注生産品、名入れ商品、衛生商品、ダウンロード販売など |
| 条件付き返品可 | 「未開封品に限り7日以内、送料顧客負担」など条件を設ける。 | 多くのECサイトにとって現実的な落としどころ。利益と顧客満足のバランスが取れる。 |
| 返品無料 | 顧客都合の返品送料も店舗が負担する。 | CVR向上を最優先したい場合。アパレルなど競争の激しい市場や高価格帯商品で有効。 |
まずは「条件付き返品可」から始め、データを見ながら期間限定のキャンペーンなどで「返品無料」を試し、自社にとって最適なポリシーを探っていくのが賢明なアプローチです。
最後に、ECサイト運営の現場でよく寄せられる、返品に関する具体的な5つの質問にお答えします。
法律上のデフォルト(返品特約がない場合)は「商品到着後8日以内」です。これを基準に、多くのECサイトでは「7日以内」や「10日以内」といった期間を設定しています。
ベストな期間は商材や顧客層によって異なりますが、一般的には「7日間」が顧客にとっても覚えやすく、事業者側の管理もしやすい期間として広く採用されています。アパレルなど試着が必要な商材では、少し長めに「10日間」と設定すると、顧客の安心感が増し、購入の後押しになる場合があります。自社の検品・処理フローにかかる時間も考慮して、無理のない期間を設定しましょう。
法律上、お客様都合の返品で発生する送料は、原則として「消費者(顧客)負担」です。返品特約に「返送料はお客様のご負担となります」と明記しておけば、店舗側が負担する必要はありません。
ただし、マーケティング戦略として、あえて「返送料無料」を打ち出す企業も増えています。これは、返送料という購入のハードルを下げることで、コンバージョン率の向上や顧客ロイヤルティの獲得を狙うものです。特にアパレル業界などで競争優位性を築くための有効な戦略とされています。まずは顧客負担で運用し、繁忙期やキャンペーン期間中などに限定して返送料無料を試してみるのも良いでしょう。
はい、返品特約にその旨を明確に記載していれば、法的に断ることが可能です。
例えば、「一度ご使用になられた商品、お客様の責任でキズや汚れが生じた商品、商品タグを切り離した商品については、返品・交換はお受けできません」といった具体的な条件を、購入前に顧客が確認できる場所に表示しておくことが重要です。
特に、下着やピアス、化粧品といった衛生商品については、「衛生上の観点から、開封済みの商品の返品はご容赦ください」と理由を添えることで、顧客の理解を得やすくなります。この事前表示がなければ、トラブルの原因となるため徹底しましょう。
これらは典型的な「お客様都合」の返品理由であり、返品特約で「不可」と定めていれば、法的に断ることは全く問題ありません。
しかし、特にアパレルや靴などのECサイトでは、この理由による返品希望が最も多いのも事実です。これらの返品を受け付けることで、「試着できない」というオンライン購入の最大の不安を解消し、顧客満足度やコンバージョン率を大きく向上させる可能性があります。
多くの成功しているアパレルECサイトでは、「送料はお客様負担」という条件付きでこれらの理由による返品を受け付けています。自社の利益率とブランド戦略を天秤にかけ、どこまで受け入れるかを判断することが重要です。
まず、社内で定められた返品ポリシーに基づき、毅然とした態度で、しかし常に冷静かつ丁寧に、対応することが基本です。感情的な応酬は避け、やり取りはすべてメールなど記録に残る形で、行いましょう。
ルールを説明しても納得せず、要求がエスカレートして脅迫的な言動や業務妨害に及ぶような場合は、担当者一人で抱え込んではいけません。速やかに上長に報告し、組織として対応方針を決定します。度を越した要求に対しては、それ以上の対応は致しかねる旨を最終通告し、必要であれば警察や弁護士といった外部の専門機関に相談することもためらわないでください。企業の従業員を守ることも、運営者の重要な責務です。
本記事では、「返品交換できません」という言葉を軸に、EC事業者が押さえるべき法的知識、実践的な顧客対応、そして売上向上につなげる戦略的思考を解説してきました。
重要なのは、返品ポリシーを単なる「コストセンター」や「面倒ごと」と捉えるのではなく、顧客との信頼関係を築き、ビジネスを成長させるための「攻めの武器」と捉え直すことです。
法的義務を遵守した上で、自社の状況に合った最適な返品ポリシーを設計し、誠実なコミュニケーションを徹底する。この一連の取り組みが、顧客満足度を高め、リピート購入を促し、さらにはGoogleからの評価をも向上させます。
「返品交換できません」という一文は、あなたのビジネスの誠実さを映す鏡です。この記事を参考に、ぜひ自社の返品対応を見直し、顧客から選ばれ続けるECサイトを目指してください。
ECを運営する中で、このようなお悩みはありませんか?
「返品くん」は返品、交換業務をシンプルにし、円滑でストレスのないEC運営を実現させます!
返品くんを導入すると、月平均30時間かかる返品・交換作業が1/10のたった3時間まで削減可能。
顧客管理をコストダウンでき、伝票など紙ベースの作業も簡略化できることで、CS対応メンバーの満足度向上にもつながります。
世界的スニーカーブランドも返品くんを導入しており、導入前は日常的に返品・交換業務(メール、電話)が発生し、フルタイム4人体制でした。
返品くん導入後は、返品くん経由での問い合わせが全体7割となり自動化と返品・交換の省力化が 進み、CS体制4名から1名に。
3名はお問い合わせ業務ではなく、売上や顧客ケアをするアウトリーチ(攻めるCS)に従事して円滑なEC運営を実現しています。
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